2021年5月21日

(一般社団法人環境金融研究機構(RIEF)からの転載)

アマゾンが初のサステナビリティボンドを10億ドル(約1100億円)発行した。資金使途は同社の本社(米バージニア州ニューアーリントン)を再生可能エネルギーでオール電化するほか、製品の配送用車両の電気自動車(EV)化やEバイク導入、手ごろな価格の住宅建設等に充当する。マイノリティーグループの従業員の雇用機会増大も目指すとしているが、同社では従業員の不当解雇問題が浮上しており、「サステナビリティ」の資金使途だけでなく、資金「意図」も問われそうだ。

発行したサステナビリティボンドは期間2年、クーポンレートは0.25%。資金使途は、再エネ導入促進のほか、マイノリティ支援や、手ごろな価格の住宅建設、クリーン交通機関、グリーンビルティング等に振り向ける。このうち、クリーン交通機関とグリーンビルディングへの対応では、調達資金でプライベートエクイティ投資を立ち上げる。

アマゾンは2040年までにネットゼロ達成目標を掲げている。同目標に絡めて、2030年までにすべての事業での使用電力を再生可能エネルギー電力に切り替えるほか、従業員についてもマイノリティーグループの雇用機会を増大させるとしている。

サステナビリティボンドは、環境、社会の両分野を資金使途先として設定する。今回の同ボンドの資金使途を見る限り、環境分野については再エネ、EV等への投資が中心で問題はないとみられる。一方の社会分野についてはマイノリティ支援と住宅投資が柱だ。

同社では、コロナ禍での物流倉庫での労働環境を批判し、気候変動への取り組み強化を求めていた従業員2人が昨年、解雇されるという事件が起きている。同案件では、米連邦政府の独立機関である全米労働関係委員会(NLRB)が違法認定を示すなどの事態になっており、社会問題化している。

市場関係者の間では、今回のサステナビリティボンドでの社会事業等への資金使途は、同社の従業員解雇問題等への批判に対処する意図があるのではとの見方もある。同社は、ボンドの発行に先立ち、新たにサステナビリティボンド・フレームワークを策定し、同フレームワークに基づき新規事業に資金を投じていくとしている。従業員の違法解雇の意図を否定したうえで、労働者には職場環境を批判する権利があることを認めるとしている。

今回のサステナビリティボンドは、全体で185億ドルの債券発行計画の一部にとして発行した。主幹事は、バンク・オブ・アメリカ、メリルリンチ、シティグループ、ドイツ銀行、ゴールドマン・サックス、HSBC、JP モルガン、モルガン・スタンレー、ソシエテ・ジェネラル、TD Securities、ウェルズ・ファーゴの10機関。米欧市場を対象としている。サステナビリティのセカンドオピニオンはドイツのISS ESGが担当した。

アマゾンに先行する形で、グーグルの親会社であるAlphabetのほか、 アップル、アリババ等の グローバルテク企業はサステナビリティボンドを発行している。一時、これらの企業はグリーンボンド発行を中心としていたが、アマゾンのように従業員の労働課題を抱えたり、コロナ禍での社会課題への対応を求められるケースが増え、サステナビリティボンドあるいはソーシャルボンドへの切り替えが進んでいる。

Alphabetは昨年8月に、発行額57億5000万ドルという大規模なサステナビリティボンドを発行している。また今年に入ってからも、米企業のFedExやマスターカード、ケロッグ、スターバックス、ベライゾン、ペプシコ等の企業がサステナビリティボンドの発行に踏み切っている。

https://www.reuters.com/business/sustainable-business/amazon-raises-1-billion-sustainable-bond-climate-social-causes-2021-05-10/

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