アンドリュー・ウィンストン氏からの、日本企業へのメッセージを紹介します。本連載第3回記事では、米国企業のサステナビリティをめぐる沈黙、協働、世界の前進を読み解きます。
アンドリュー・ウィンストン氏からTFN会員企業へのメッセージ
2026年10月に実施した、イースクエアが運営する企業ネットワーク「The Frontier Network(TFN)」の米国視察ツアーでは、TFN会員企業の皆さまとアンドリュー・ウィンストン氏との面談が実現しました。その際、ウィンストン氏から日本企業に向けて、次のメッセージが寄せられました。
「TFNの皆さまとお会いできたことを、大変うれしく思います。皆さまの取り組み、そしてサステナビリティが今も事業活動の重要な一部であることを知り、大いに励まされました。困難なサステナビリティの取り組みを継続してくださり、ありがとうございます。米国でサステナビリティの歩みが鈍化している今、皆さまの取り組みはこれまで以上に重要です。」
以下に、アンドリュー・ウィンストン氏による連載第3回「米国におけるコーポレート・サステナビリティ」を掲載します。
本記事は、イースクエアが運営する企業ネットワーク「The Frontier Network(TFN)」の会員向け情報誌『The FRONTIER REPORT』に掲載された記事を、許諾を得て掲載しています。The Frontier Network(TFN)について詳しく見る
現状
米国企業のサステナビリティへの取り組みは、急速に変化し続けている。過去2つの記事で述べた通り、サステナビリティの終焉を指摘する各種報道は、かなり誇張されている。とはいえ、政府がサステナビリティの重点課題への取り組みを否定している現在の米国の政治状況は、現実的な圧力となっている。
しかし、まずは明るいニュースからだ。最新のデータを見てみよう。いくつかの大手コンサルティング会社は、企業の経営陣のサステナビリティに対する見方について、継続的に調査を実施している。最新のグローバル調査では、サステナビリティの取り組みが引き続き行われていることが明らかになった。
- アクセンチュアが毎年実施している「サステナビリティに関するCEO調査」によれば、99%のCEOが「取り組みを維持または拡大」する意向である。また、88%が、サステナビリティに取り組むことのビジネス上の妥当性や正当性は5年前よりも強まっていると回答している。
- ベイン・アンド・カンパニーの調査では、サステナビリティの取り組みと事業面での価値とを結びつけて考えるCEOが全体の54%に達し、2018年の34%から増加した。
- フォーブスの「グローバル2000」リストに掲載された企業の約3分の2(63%)は、ネットゼロ目標を掲げている。米国でも、ネットゼロ実現を目指す企業の数は1年間で9%増加した。
- 5社に4社が、今後12~18カ月以内に環境のサステナビリティに向けた投資を拡大する予定である。
沈黙という問題
素晴らしい調査結果ばかりだが、問題は依然として解決されていない。米国では、サステナビリティについて、誰も安心して話題にすることができないのである。アクセンチュアの調査においても、ほとんどの人が取り組みを継続する意向を示したものの、「自社のサステナビリティの進捗状況について発信することに抵抗がない」と答えた人は50%にとどまった。ただし、これは世界全体での数字である。米国のCEOに限って言えば、サステナビリティについてオープンに話をすることに抵抗がないと言える人は、ほとんどいないだろう。
筆者が企業に関わり、多くのチーフ・サステナビリティ・オフィサー(CSO)と話をした経験から言えるのは、サステナビリティについて口を閉ざす、いわゆる「グリーン・ハッシング」は、米国企業にとって常識だ。新たな目標について情報をオープンにしている企業もあるが、ほとんどは多くを語らずにいる。
この沈黙が、深刻な問題を引き起こしている
第1に、社内で従業員の士気やエンゲージメントが損なわれている。
CSOらによれば、サステナビリティ部門のモチベーションは低下しているという。かつては社内でサステナビリティの影響力が高まり、CSOが投資家向けの会合に招かれることもあったが、今や状況が一変した。実際にレイオフや降格が行われるケースもあるが、それ以上に、従業員が「自分の仕事は隠すべきものだ」と感じてしまうことがよくある。
第2に、経営陣があるテーマに言及しなくなることは、もはやそれが重要ではないと従業員に伝えているに等しい。
先に述べたように、社内では現在も多くの取り組みが続けられており、サステナビリティが完全に放棄されたわけではない。しかし、従業員、およびサプライヤーや顧客など社外の関係者には、経営陣が何を重視しているのかが分かる。今、米国の従業員に、「経営陣の関心がどこに向いているか」と尋ねたとしたら、多くは、地政学、連邦政府に目をつけられないようにすること、関税、AIと答えるだろう。そして今、サステナビリティは政治の争点となり、その取り組みが打撃を受けている。
第3に、サステナビリティの課題は大規模かつ構造的で、一企業が単独で解決できるものではない。
知見を共有できる協働と透明性のあるパートナーシップが必要である。この現実があるからこそ、筆者とユニリーバの元CEOポール・ポールマンは、世界に貢献するネットポジティブな企業の実現に取り組んでいる。協働は不可欠だが、誰とも語り合うことのない状況でそれを実現するのが難しいのは言うまでもない。
その他の明るいニュース:クライメート・ウィーク(Climate Week)
「協働」と言えば、もう一つ明るい話題がある。9月にニューヨークで開催された「クライメート・ウィーク」では、パートナーシップが大きな論点となった。この催しは、気候変動対策の進展と行動をテーマに世界中から関係者が集まる大規模な会合である。年に一度の政策会合(COP会議)とは異なり、クライメート・ウィークは主にビジネスを主眼としている。これまでにどんな進展があったのか(あるいはほとんどなかったのか)を確認するチャンスだ。会期中には約10万人が集まり、筆者はスピーカー、モデレーター、聴衆として参加した。約1,000のイベントのごく一部しか見られなかったが、いくつかの共通したテーマを見出すことができた。
多くの人が驚いたのは、すべてがいつもどおりだったことだ。政府がクリーン経済を押さえつけ、サステナビリティの重要な要素を攻撃しようとしている米国で開催されたにもかかわらず、議論の中心は依然として実質的な進展と解決策にあった。
クリーン経済の実現に深く関与する企業が数多く存在し、その数が増えつつあることは明らかだ。ABB、トレイン・テクノロジーズ、シュナイダーエレクトリック、三菱、シーメンスなどのメーカーは、化石燃料業界がサステナビリティの進展を遅らせようとするのに対抗している。
クライメート・ウィークはまた、気候変動対策がグローバルな取り組みであること、そして、米国だけが世界ではないことをあらためて示す機会となった。日本を含む米国以外の企業の役割はますます大きくなっている。他の地域が主導的役割を果たすことは可能である。
米国の動向は依然として不透明だが、世界は前進しているのだ。
過去の掲載記事
第1回 アンドリュー・ウィンストン氏からのメッセージ①「米国におけるサステナビリティの今」~企業が直面している主な圧力と注視すべきポイント~
第2回 アンドリュー・ウィンストン氏からのメッセージ②「サステナビリティは攻撃されているが、死んではいない」

筆者紹介
アンドリュー・ウィンストン氏(Andrew Winston)
メガトレンドおよびサステナブル・ビジネスに関する世界的に著名な専門家である。
世界で最も影響力のある経営思想家を選出する「Thinkers50」において、第3位にランクインした経歴を持つ。戦略に関する著書としては、『Greento Gold』『The Big Pivot』、そして伝説的なCEOポール・ポールマンとの共著『Net Positive』などがあり、これの書籍は15か国語に翻訳され、累計25万部以上を売り上げている。『NetPositive』は、英フィナンシャル・タイムズ紙によって「年間最優秀ビジネス書」の一冊に選ばれた。
世界中の経営幹部を対象とした講演において、非常に高い人気と評価を誇るインスピレーショナルなスピーカーである。
**The Frontier Network (TFN)は、サステナビリティを巡るグローバルな潮流を捉え、「持続可能な価値創造」を実践する企業のネットワークです。世界の第一人者との対話や、メンバー企業間の議論・情報交換を通じて、サステナビリティ・ESG経営の推進を支援しています。**
