• サステナビリティ・ESG
アンドリュー・ウィンストン氏からのメッセージ①「米国におけるサステナビリティの今」 ~企業が直面している主な圧力と注視すべきポイント~

【公開日】 【最終更新日】

※本記事は、イースクエアが運営する企業ネットワーク「The Frontier Network(TFN)」の会員向け情報誌『The FRONTIER REPORT』2025年6月号に掲載された記事を、許諾を得て掲載しています。The Frontier Network(TFN)について詳しく見る

米国は劇的な変化の渦中にあり、それに伴ってビジネスの環境も変化している。このたび、フロンティア・ネットワーク事務局より、現在の状況に関する私の見解を共有してほしいとの依頼を受けた。このように日々変動し、不安定な状況下では、正確にまとめたり予測したりすることは難しい。コーポレート・サステナビリティの分野に25年間携わってきたが、このような環境はかつて経験したことがない。新政権が、連邦政府そのものから国内の一流大学にいたるまで、あらゆる制度を破壊しようとする動きを取り上げることもできるが、本稿ではビジネスの視点、とりわけサステナビリティ分野が直面する強い圧力に焦点を当てたい。

さて、米国の企業におけるサステナビリティは後退しているのだろうか。我々が直面している数々の難題に対して、立ち向かう力を失いつつあるのか。結論を一言で言えば、「判断が難しい」、あるいは「本当のところはまだわからない」となる。たしかに、懸念される兆候はある。企業が、初となる反サステナビリティの声明を出す例や、沈黙してしまう例(グリーンハッシング)も見られる。しかし一方で、希望を感じさせる動きも存在する。

この問いを深掘りするために、企業が直面している主な圧力と注視すべきいくつかの指標を整理してみよう。

企業にかかる4つの大きな圧力

1.「行動を(大いに)控えろ」との圧力

これが今、最も注目を集めている圧力だ。右派政治を背景に拡大する「反ESG」運動であり、この運動は、DEI(多様性、公平性、包摂性)を中心に、気候変動、人権など、あらゆるサステナビリティ活動を標的にしている。最初は、右派メディア(従来型・SNSの両方)による激しい追及やボイコットの脅しが中心だったが、現在は連邦政府という巨大かつ強力な存在からの直接的な圧力が加わり、企業は訴訟や契約打ち切りの脅しをかけられている。初めに標的となったのは法律事務所だった。法の支配を支援するという本来の目的を考えると、驚くほど多くの法律事務所がすぐに屈した。主要な法律事務所は、政府の方針のために、合計で10億ドルを超えるプロボノ(無償)法的支援を約束している。企業がそうそう「勇気ある行動」に出られる時代ではなくなっている。

2. サステナビリティへの取り組みを「もっとやれ」との圧力

一部の学者やビジネス界のサステナビリティ推進派は、企業、特に金融機関に対してグリーンウォッシングをしていると批判している。銀行のESGファンドは、サステナビリティを重視している企業への投資に見せかけながら、実際には、その多くが「企業にとってのサステナビリティ関連リスク」を評価するもので、「企業が社会や環境に与えるインパクト」を評価するものではなかった(すなわち、シングル・マテリアリティかダブル・マテリアリティかという話である)。そこで、グリーンウォッシングや気候変動に対する責任を問う訴訟も増えつつある。こうしたサステナビリティ推進派の圧力は、反対派の力には遠く及ばないものの、企業がサステナビリティについて沈黙するさらなる理由となっている。

3. 避けがたい混乱―報告義務

EUのCSRD(企業サステナビリティ報告指令)をはじめとして、サステナビリティ活動の成果を測定・報告する法的義務が拡大し、企業には大きな負担がかかっている。これらの報告枠組みが真に持続可能な成果に結びつくのかを疑問視する声もある。こうした声は正しいかもしれないが、現在は、混乱が伴う移行期にある。基準や報告はたしかに、長期的な整合性と進展のために重要であるとはいえ、少人数からなることの多いサステナビリティ部門にとっては重い負担となっており、本来の環境・社会課題への対応業務が手薄になることが懸念される。

4. 不必要な混乱―経済の不安定さ

米国における政策の不確実性により、企業はサステナビリティのような長期的課題について計画し集中することが難しくなっている。特に関税政策は、クリーンテックを含む複数の産業に混乱をもたらしており、企業の経営層の関心もそちらに引き寄せられている。

これら4つの圧力が相まって、サステナビリティには寒風が吹きつけており、企業の沈黙につながっている。しかし、声を上げていないからといって、必ずしも行動が止まっているわけではない。

注視すべきポイント

企業のサステナビリティへの真の取り組みを見極めるため、私は相互に関連する次のようなビジネス要素に注目している。

目標(ゴール)

目標は成果そのものではないが、意志の表明であり、組織の優先順位を示すものである。もし企業が目標を引き下げ始めたら、それは課題解決への支持が弱まっていくこと、そして活動が大幅に鈍っていくことを示唆する。注目を集めた後退事例がいくつかあるが、大半の企業はまだ目標の見直しを行っていない(通常、5~10年ごとの見直し)。ただし、米国ではリーダーシップを発揮しようとする企業が減っているのは明らかである。

方針(ポリシー)

ここでは、企業が最も厳しい圧力に直面しているDEIの分野に特に注目している。ダイバーシティに関する取り組みが公に語られることは明らかに減った。一部の企業は無用な批判を避けるために言葉選びを変更しているのかもしれない。「方針自体は維持しているが、公には語らない」と語る経営者もいる。

人員配置と組織の支援体制

ご存じのように、測定されるものは管理される。そして、資金がつけば、注目が集まる(また、注目が集まれば、資金がつく)。人員や予算を削減することは、社員に明確なメッセージを送ることになる。今のところ、サステナビリティ部門が縮小している例はないようだ。ただ、そもそも多くのサステナビリティ部門の規模は大きくない。また、EUでの報告義務がある上場企業や大企業では、大幅に縮小できないのも事実である。

以上のような点に着目したとしても、米国におけるサステナビリティ活動が本当に後退しているかどうかの判断には時間がかかるだろう。特に気候変動関連など、簡単には止められない取り組みもある。たとえば、多くの企業が再エネ電力の長期契約を締結している。また、自動車業界は明らかに研究開発費をEV開発に大幅にシフトしている。

一方で、社会課題関連はより流動的だ。ダイバーシティに関する採用方針や取り組みは比較的すぐに後退させることができるし、実際にそうした企業も出てきている。とはいえ、行動を促す要因がなくなっているわけではない。気候変動は続いているし、関心を持つステークホルダーも存在し続ける。多国籍企業にとっては、米国政府がそう望むからといって、国際的な期待に背を向けるわけにはいかない。

“ つまり、沈黙の中でも活動が続く可能性はあるが、それでも大きな問題は残る。私たちが直面している課題は、深刻かつ悪化しており、システムレベルの解決策が求められている。連携が不可欠な中、対話なしでは協力もままならない。さらに言えば、行動の一時停止すら許されないのが現状である。米国での変革を今後も推進するには、「勇気」が必要であるが、それが現在、非常に不足している ”

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**The Frontier Network (TFN)は、サステナビリティを巡るグローバルな潮流を捉え、「持続可能な価値創造」を実践する企業のネットワークです。世界の第一人者との対話や、メンバー企業間の議論・情報交換を通じて、サステナビリティ・ESG経営の推進を支援しています。**

筆者紹介

アンドリュー・ウィンストン氏(Andrew Winston)

メガトレンドおよびサステナブル・ビジネスに関する世界的に著名な専門家である。
世界で最も影響力のある経営思想家を選出する「Thinkers50」において、第3位にランクインした経歴を持つ。戦略に関する著書としては、『Greento Gold』『The Big Pivot』、そして伝説的なCEOポール・ポールマンとの共著『Net Positive』などがあり、これの書籍は15か国語に翻訳され、累計25万部以上を売り上げている。『NetPositive』は、英フィナンシャル・タイムズ紙によって「年間最優秀ビジネス書」の一冊に選ばれた。
世界中の経営幹部を対象とした講演において、非常に高い人気と評価を誇るインスピレーショナルなスピーカーである。

Andrew Winston:HOME / Andrew Winston: LinkedIn

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