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1. インドCSR法の概要

インドでは、2013年の会社法(The Companies Act, 2013)の改正により、企業のCSR活動が義務化されました。インドにおいてCSRが義務化された背景には、ヒンズー教の考え※①やマハトマ・ガンディーが提唱した経済思想である受託者制度理論※➁があると言われています。本稿では、インドのCSR法の概要や企業によるCSR活動についてご紹介したいと思います。

※① 自身の資産を貧しい人やお寺等に寄付すると幸福になれる、との考え
※➁ 富める者が神から財産を受託し、その財産を貧しい者のために行使するべき、との考え

1.1. インドCSR法の概要

インド「2013年会社法(The Companies Act, 2013)」の第135条(Corporate Social Responsibility)では,①純資産50億インドルピー(約90億円)、②売上高100億インドルピー(約180億円)、③純利益5,000万インドルピー(約9千万円)のいずれかに該当する企業は、直近3か年の税引き前利益の平均額の2%をCSR活動に充てる必要があります。

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*インドルピー=約1.80円で換算

一方、もし、対象企業が2%の税引き前利益(CSR予算)をCSR活動に充てることができない場合は、達成できなかった理由を報告書としてまとめて公表する必要があります。また、CSR予算の未達成額は、次年度のCSR予算に加算することも義務付けられています。本法律の基本的な考え方は、「Comply OR Explain」(遵守、または、説明)となっており、説明をしなかった/できなかった場合は、罰則の対象になります。さらに、本法律は、2019年、2020年、2021年と改正されてきており、直近の改正の中では、CSR活動の対象として認められない活動の提示、CSR委員会によるモニタリング義務の強化、開示義務の強化などが盛り込まれ、法律の厳格化が進んでいます。

1.2 インドCSR法の拠出先分野

では、CSR予算はどのような分野に拠出されているのでしょうか。

2021年のJICAのレポート※③によると、過去6年(2014年~2020年)の拠出額合計で最もCSR予算が拠出された分野は、教育分野でとなっています。次いで、ヘルスケア分野が18%、農村開発分野が10.63%と続いています。

※③ JICA, "Research Report on CSR Trends and Opportunities in India"(2021)
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図1 インドにおけるCSR予算拠出先分野(2014-2020の合計)
*JICA, "Research Report on CSR Trends and Opportunities in India"(2021)よりイースクエア作成

これらの3分野に拠出が集中している理由としては、CSR予算を拠出する企業の所在する地域におけるコミュニティ開発ニーズがこの3分野に集中していることが考えられます。

一方で、ジェンダー平等(0.37%)、スポーツ振興(1.25%)、農林業(0.27%)、技術創出(0.14%)は拠出が低い分野となっています。

では、現地に進出している日本企業でCSR法の対象になる企業は、どのような分野にCSR資金を拠出しているのでしょうか。

同レポートによると、インド日本商工会の所属企業446社にアンケート調査を行った結果、45社から現地でCSR活動に取り組んでいるとの回答がありました。また、CSR活動取り組み分野の質問に対して44社から回答があり、その内容は以下のようになっています。

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図2 インドにおける現地日本企業のCSR予算拠出先分野(n=44)
*JICA, "Research Report on CSR Trends and Opportunities in India"(2021)よりイースクエア作成

この結果をみると、日本企業のCSR拠出先分野は、インド企業を含めた全体(表1)でのCSR拠出先分野の上位にある健康保健教育分野で類似していることがわかります。  

次に、現地の日本企業は、どのような実施パートナーとCSR活動を推進しているのでしょうか。

前述のインド日本商工会の所属企業へのアンケート調査の結果が表3で、以下が主な実施パートナーとして選ばれています。

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図3 インドにおける現地日本企業のCSR活動実施パートナー(n=42)
*JICA, "Research Report on CSR Trends and Opportunities in India"(2021)よりイースクエア作成

この結果から、多くの企業がNGOを実施パートナーとして選定していることがわかります。また、同報告書によると、なかでも比較的小型のNGOとCSR活動をすることが好まれているとしています。その理由としては、大きなNGOに比べて、小さなNGOは比較的フレキシブルな対応が可能なこと 、実施にかかる管理コストも低く抑えることができること、など挙がっています。

2. 日本企業のインドにおけるCSR活動事例

ここからは、現地日本企業のCSR活動事例を紹介したいと思います。

2.1. Toyota Kirloskar Motor(TKM)、Toyota Education and Skill Promotion (TESP)

Toyota Kirloskar Motor Private Limited(TKM)はトヨタ自動車と印キルロスカ・グループとの合弁会社として、1997年に設立されました。TKMでは、地域社会の総合的な発展を目的として、教育、スキル開発、環境、健康、衛生、交通安全、災害管理など、さまざまな分野においてCSR活動を展開しています。2021-2022年度のCSR活動においては、図4に示されるように、「コミュニティの強化(Empowering Communities)」と「環境を豊かにする(Enriching Environment)」ことを重点分野として選定しています。

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図4 TKMによるCSR活動(2021-2022)※④

※④ Toyota Kirloskar Motor Corporate Social Responsibility Annual Report 2021-2022 

2.2. インドCSR法、日本企業の課題

TKMは、CSR活動の一環として、カルナタカ州の職業訓練校であるIndustrial Training InstituteITI20校とGovernment Tool and Training CenterGTTC4校と連携して職業スキルの開発を支援するプログラム「Toyota Education and Skill Promotion (TESP)」を運営しています。

インドでは、自国の製造業の発展を目的として、雇用創出や産業人材育成を推進するSkill IndiaMake in India政策を実施しており、本CSR活動はその目標達成に貢献する事業として位置づけられています。TESPでは、研修に必要な設備や研修プログラムの提供を通じて、若手人材の職業能力を開発し、雇用創出や産業人材育成に貢献することを目指しています。

前述のJICAレポートでは、①ビジネス能力の活用、②総合的な課題への取り組み、③現地パートナー(NGO等)とのプログラムの共創、④事業の拡張可能性、⑤地域社会やステークホルダーの取り込み、⑥包括的なモニタリングと評価システムの6項目が現地で成功するCSR活動の要素であるとしています。

その視点で、TKMCSR活動を見ると、製造業で養ったビジネス能力を活用して課題に取り組み、現地の政府機関やステークホルダーとの連携を強化しながら、拡張性を持った事業になっており、成功するCSR活動の要素が入っているように考えられます。現地でのリソースが限られる日本企業にとっては、全ての要素を組み込むことは難しいかもしれませんが、自社にないリソースは現地パートナー、ステークホルダー、専門コンサルタントとの協働などを通じて、できる限りその要素を網羅していくことが、実効性の高いCSR活動を作るために必要であると考えられます。

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図5 TMC Toyota Education and Skill Promotion(TESP) ※⑤

※⑤ Toyota Kirloskar Motor Corporate Social Responsibility Annual Report 2021-2022

それでは、ここからは、現地でCSR活動を実施する企業が抱えている課題について確認したいと思います。

前述のインド日本商工会の所属企業へのアンケートから、CSR活動を実施する際の課題として挙がった上位3位は、信頼できるNGOの情報がない50%(19社)、NGOの事業実施とプロジェクトマネジメントの品質39%(15社)、CSR活動の標準プロセスがない39%(15社)、となっています。

上位2つは協働するNGOへの不安や実施能力に関する点が挙がっており、協働先の選定が大きな課題になっていることがわかります。また、これら以外の点では、CSR活動の実施体制の未整備、CSR活動の企画・モニタリング・評価におけるキャパシティ不足などが挙がっており、現地企業の限られたリソースの中でCSR活動を企画運営することが難しい状況であることがうかがえます。

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図6 インドにおける現地日本企業のCSR活動における課題
JICA, "Research Report on CSR Trends and Opportunities in India"(2021)よりイースクエア作成

2.3. 終わりに

本稿では、インドCSR法の概要についてご説明してきました。インドのCSR法は2014年の法律施行から2回の改正を経て、約8年が経過しています。インドでは、前述のとおり、歴史的・文化的背景から、企業の社会貢献が期待されており、今後もCSR法の対象企業に対してはその期待も大きくなってくると予想されます。

筆者も現地の日本企業のCSR担当者の方から、協働先の選定に大変苦労されているとの話を聞いたことがあります。今後、インドに進出する企業、進出している企業でCSR法の対象になっている企業にとってはCSR活動を実施するパートナーの選定や継続的な運営管理体制の構築が大きな課題になってくると思われます。

一方、TKMの事例にあったように、自社の強みを生かし、その国の社会課題の解決に資するCSR活動を、適切な現地パートナーやステークホルダーと共創することで、実効性の高いCSR活動を実現できる可能性が高まると考えられます。

2.4. イースクエアのインドビジネス展開支援

イースクエアでは、インドへ進出する企業やインドで事業を実施する企業のビジネス展開を支援しています。

インドビジネス展開支援

現地におけるCSR法対応に関しては、現地のNGOや専門家ネットワークを活用することで以下の支援を行っています。

インドCSR法対応支援

  1. CSR活動の企画支援(取り組み分野の選定、取り組み方法・体制の構築等)
  2. CSR活動の実施パートナー選定支援
  3. CSR活動の実施・モニタリング・評価支援

インド進出やインドCSR法対応に関してご相談のある方は、以下までお気軽にお問い合わせください。

日本企業のインド事業を強力にバックアップします

インド進出やインドCSR法対応に関してご相談のある方は、お気軽にお問い合わせください。また、進出先選定、市場調査、実現可能性調査(F/S)、公的機関の支援活用など、事業の立ち上げもワンストップでご支援します。



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