こんにちは。イースクエア代表の本木啓生です。

今年は「ビジネスと人権に関する指導原則」が国連から発行されて10周年にあたります。去る9月16日、ビジネスと人権の枠組みづくりに尽力されたジョン・ラギー氏が他界されました。素晴らしいお人柄と類まれなる洞察力で非常に複雑な人権の問題を「ラギー・フレームワーク」そして指導原則としてまとめられました。ちょうど10年前、企業の方々とともにハーバード・ケネディ・スクールを訪問させて頂いた折には、ラギー教授が笑顔で我々を迎え入れ、コーヒーやクッキーを振る舞ってくれたことを思い出します。人権分野で大きな功績を遺されたラギー氏のご逝去を悼み、心よりご冥福をお祈り申し上げます。

今やサステナビリティやESGが企業経営における必須要素となりました。人権問題を含む社会課題や環境課題を軽視する企業は、消費者からそっぽを向かれ、取引先からは相手にされず、有能な若手社員の採用にも苦労することになり、マーケットからの退場を余儀なくされていくことになります。

時代を先取りして企業経営の方向性を見極めるには、経営者の大きな決断が必要になりますが、2005年、他社に先駆けサステナビリティを経営の根幹に据えることを決めたウォルマートは先駆的な企業の一社です。売上高は世界一、世界に200万人以上の従業員を抱え、毎週2億人以上に商品を提供する巨大企業が打ち出した究極目標は次のようなものでした。

1. 100%再生可能エネルギー調達
2. 廃棄物ゼロ
3. 資源や環境を持続させる商品を販売

サステナビリティ/ ESGの重要性への認識が高まるなか、近年こうした長期目標を打ち出す企業が増えつつありますが、16年前の時点では皆無でした。

リー・スコットCEO(当時)は、2005年8月末に米国南東部を襲ったハリケーン・カトリーナによる自社店舗の多大な被害を目の当たりにし、環境問題の深刻さを肌で感じたと言います。ウォルマートは"Every Day, Low Price" をコンセプトにした店舗を展開しており、米国ではお客さんは低所得者層が中心です。サステナビリティ経営に舵を切るという意思決定は、お客さんからそれを求める声があったのではなく、経営として必要だからやるというトップダウンの決断でした。

今から何年も前になりますが、スコットCEOの相談役としてこのウォルマートの変革を背後で支援したBlu Skye社の創業者であるジブ・エリソン氏を日本にお招きし、話を伺ったことがあります。エリソン氏によると、当初はウォルマートの経営陣を含む内部の抵抗は非常に大きく、スコットCEO を辞めさせようという動きもあったそうです。しかし、若い世代の従業員や店舗のスタッフからは、CEO が発表した取り組み内容に共感する、そのような会社で働いていることを誇らしく思うといったポジティブなメールがCEO 宛に数多く舞い込んだそうです。次世代リーダーとなる人々(トップ10%の優秀な社員)からの声が数多く届いたことで、スコットCEOも自分の決断に確信を持つことができたということでした。

社会の持続可能性の限界が見え始め、脱炭素社会の構築に向けてこれまでの常識が通用しなくなる世界が訪れようとしています。事業環境の激変を前にして経営者が大きく舵を切るとき、抵抗勢力を跳ね除ける勇気と意気込みが必要となります。しかし、企業が中長期視点であるべき方向に向かっているのであれば、ビジョンに共感し強力にサポートしてくれる人が社内外に必ず出てきます。経営者は覚悟を持って取り組むのみです。


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◇◆ 目次
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〔1〕注目CSRニュース - エーザイ、インパクト・ウェイテッド会計の
考えを取り入れた価値創造レポート2021を発行

〔2〕新任サステナビリティ・CSR推進の責任者・実務担当者向け
「サステナビリティ経営のための速習セミナー」
【理解編】【応用編】【ESG評価対応編】 お申し込み受付中 


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〔1〕注目CSRニュース - エーザイ、インパクト・ウェイテッド会計の
考えを取り入れた価値創造レポート2021を発行
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このコーナーでは、「CSRコンパス」から注目ニュースをピックアップしてご紹介します。
今回取り上げるニュースは、「エーザイ、インパクト・ウェイテッド会計の考えを取り入れた価値創造レポート2021を発行」です。

------<CSRコンパス8月のニュースから転載>--------------------------
エーザイは、昨年までアニュアルレポートに加え、環境・社会報告書を統合報告書として発行していたが、2021年度より「価値創造レポート」に名称変更して今回はじめて発行。インパクト・ウェイテッド会計(インパクト加重会計)の考え方に基づいたハーバード・ビジネス・スクールとの最新研究の内容を紹介している。
同社は、ハーバード・ビジネス・スクールのジョージ・セラフェイム教授のチームとともに、インパクト加重会計イニシアチブ(IWAI)における日本で最初の事例として、2019年度のエーザイ単体について「従業員インパクト会計」として以下の数値を試算している。

「従業員へのインパクト」
・賃金の質
・従業員の機会
「労働者のコミュニティへのインパクト」
・ダイバーシティ
・地域社会への貢献

上記の数値を試算した結果、同社は2019年に合計で269億円の価値を創出したと算出している。「従業員の機会」と「ダイバーシティ」はマイナスの結果となっており、この分野に課題があることが見えてくるという。

------<転載ここまで>------------------------------------------------

今回は日本の製薬大手エーザイか発行した価値創造レポート2021についてのニュースを取り上げました。エーザイは、2015年から統合報告書を作成していましたが、中長期の時間軸で創造する社会的価値について、よりしっかりとステークホルダーに伝えたいとして、今年度から「価値創造レポート」へと名称変更したということです。

84ページにおよぶ価値創造レポートでは、まず巻頭のページでマテリアリティについて、その設定プロセスやマトリックスを示し、続いて企業理念、トップメッセージと、重要な項目が丁寧にまとめられて報告されています。

また、本レポートでは、非財務の価値の定量分析の実証研究を試みた経験が報告されています。これは、ESGとPBR(株価純資産倍率)とが正の相関関係にあることを重回帰分析で解析したものとして、世界で初めての開示事例だということです。非常に難解な分析内容ですが、エーザイのESGが創造する企業価値の試算が示されています。また、同レポートではハーバード・ビジネス・スクールのセラフェイム教授が提唱するインパクト・ウェイテッド会計(インパクト加重会計)の試みについても報告されています。2019年度の数字から「従業員インパクト会計」について試算を行い、その結果同社はダイバーシティの側面で一層の促進が必要であるという課題が可視化されたということです。このように、定量的な試算から具体的な課題が見えてきたことには重要な意義があるでしょう。これも日本では最初の事例だということです。

サステナビリティやCSR、ESGの分野ではグローバルレベルで知恵が結集し、様々な新しい概念や評価手法などが考案され、進化を続けています。エーザイが、こうした潮流の中で、いち早く新たな手法を試み、その挑戦のプロセスを開示していく姿勢は、多くの企業にとって学びとなるでしょう。

なお、インパクト・ウェイテッド会計(インパクト加重会計)については、イースクエアも早期から強い関心をもって注目しており、同分野での人的なネットワークを有しています。CSRコンパスでは、2019年にセラフェイム教授らと研究基盤をともにするサキス・コツァントニス氏から「インパクト加重会計の可能性と機会」という寄稿をいただいています。今回のメールマガジン発行に合わせて特別公開しましたので、ご興味のある方はぜひご一読ください。

「インパクト加重会計の可能性と機会」
サキス・コツァントニス氏
英国KKS Advisorsマネージングパートナー兼共同創設者
https://www.e-squareinc.com/insight055.pdf

CSRコンパスについてははこちらをご参照ください。
https://www.csr-compass.jp/

■お問い合わせ
(株)イースクエア CSRコンパス事務局
E-mail: compass@e-squareinc.com


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〔2〕新任サステナビリティ・CSR推進の責任者・実務担当者向け
「サステナビリティ経営のための速習セミナー」
【理解編】【応用編】【ESG評価対応編】 お申し込み受付中 
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イースクエアでは、サステナビリティ・CSR担当/責任者のための速習セミナーをオンラインでご提供しています。2週間の受講期間中、お好きな時間に何度でもご視聴いただけます。

本メールでは、以下のセミナーについてお知らせいたします。

(1)【サステナビリティ全般】 理解編・応用編 
(2)【テーマ別】       ESG評価対応編 


(1)【サステナビリティ全般】 理解編・応用編

「理解編」「応用編」は、サステナビリティ・CSRの全体像や世界動向、サステナビリティ・CSR部門の役割について理解を深め、明日からの業務にすぐに活かしていただけるプログラムとなっています。

 "新任のサステナビリティ・CSR責任者およびご担当者"

あるいは

 "体系立ててもう一度サステナビリティ・CSRの全体像をとらえ直したい方"

にお勧めです。

これまでに会場での開催を含め230社以上にご受講いただき、「サステナビリティ・CSR担当者にとって必要なことが凝縮して学べる」と高い評価をいただいています。


(2)【テーマ別】 ESG評価対応編

「ESG評価対応編」は、CDPスコアリングパートナーであるソコテック・サーティフィケーション・ジャパン株式会社との共同により、企業のESG情報開示ご担当者向けにご提供している研修プログラムです。

 "新たにESG情報開示対応のご担当になる責任者および実務担当者" 

に加え、

 "これからESG情報開示に注力される企業のご担当者" にお勧めです。

「理解編」「応用編」に加えて「ESG評価対応編」を受講いただくことで、サステナビリティ・CSRの全体像を理解したうえで、ESG評価に対応する具体的ノウハウを身につけていただけます。

なお「理解編」「応用編」を受講されていない方でも、「ESG評価対応編」のみ受講頂くことが可能です。

これからの企業のサステナビリティ・CSRを創っていくために欠かせない内容をご提供させて頂きます。ぜひ多くの方にご参加頂けるとありがたいです。

◆セミナー内容の詳細情報
(1)【サステナビリティ全般】 理解編・応用編
https://www.e-squareinc.com/CSRseminar_online2021.pdf

(2)【テーマ別】 ESG評価対応編
https://www.e-squareinc.com/CSRseminar_online_esg2021.pdf

◆参加申し込み
上記セミナーは、以下のリンク先からお申し込み頂けます。
https://bit.ly/3tepZGs

■お問い合わせ
(株)イースクエア セミナー事務局
E-mail: seminar@e-squareinc.com


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【編集後記】
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海外出張もままならない日々が続きますが、今日ははるか遠いアフリカ・タンザニアの話です。

タンザニアは東アフリカに位置する国で、アフリカ最高峰のキリマンジャロ山、サファリで有名なンゴロンゴロ自然保護区やセレンゲティ国立公園、インド洋に浮かぶザンジバル島がよく知られています。GDPの約3割が農業で、全就業人口の約7割が農業に従事する農業国です。サツマイモやフルーツなどの農産物は豊富にあるのですが、食品加工に向いた品種は少なく、農家の栽培技術は不十分で、農産物を加工や貯蔵する技術が未発達です。

そこでイースクエアでは、JICA(国際協力機構)の民間連携事業を活用し、食品加工に適したサツマイモの品種、貯蔵技術、栽培技術をタンザニアに導入する支援を行いました。

その成果を活用しつつタンザニアで食品加工事業を行う現地法人(Matoborwa社)で、いま新規設備投資のためのクラウドファンディングを実施しています。当初の目標金額を達成し、いまは「ネクストゴール」に向けて挑戦中だそうです。

アフリカの農家と二人三脚で、理想の干しいも&ドライマンゴーを作る!
https://readyfor.jp/projects/hoshiimo

日本の技術を使って、はるか遠い国で美味しい干しいもやドライマンゴーが作られるってワクワクしませんか。
ぜひご一読頂き、お知り合いにもご紹介頂けるとありがたいです。(担当:柳田)

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当社では、新型コロナウイルスの感染拡大を防止し、お取引先企業の皆さまや当社従業員およびその家族の安全を確保するため、2020年3月より原則在宅勤務の体制に切り替えさせて頂いております。お問い合わせは当社Webサイトのフォームよりご連絡をお願いします。
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