海外市場への進出を検討する企業にとって、設備投資や市場開拓にかかる費用は大きなハードルの一つです。
海外展開に活用できる公的支援制度としては、経済産業省の「グローバルサウス未来志向型共創等事業費補助金(以下、グローバルサウス補助金)」などがありますが、もう一つ注目したいのが、2026年度からスタートした「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」の「グローバル枠」です。
名前に「ものづくり」とあるため、海外展開とはあまり関係がないように見えるかもしれません。しかしグローバル枠は、海外市場開拓(輸出)に向けて国内の製造・供給体制を強化する企業を支援する制度です。
2026年の第1回公募では、補助率は2/3、補助上限は通常最大7,000万円、一定の賃上げ要件を満たした場合は最大9,000万円です。応募締切は2026年10月30日(金)18時となっています。
本記事では、グローバル枠の概要や向いている企業、予算規模、採択率の参考情報に加え、グローバルサウス補助金との違いについて解説します。
制度の詳細については、公式サイトもご確認ください。
「グローバル枠」はどのような補助金か
「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」は、中小企業等による革新的な製品・サービスの開発、新市場・高付加価値事業への進出、海外市場開拓などを支援する制度です。
その中の「グローバル枠」は、海外市場開拓(輸出)に向けた国内の輸出体制強化を支援するものです。
対象となるためには、自社の製品等を活用して、自社が主体となって新しい海外販路を開拓し、そのために国内の製造等の拠点を強化することが必要です。
また、進出先についても、自社にとって「新たな海外市場」であることが求められます。これまで自社の事業対象となっていなかった国・地域への進出が基本となります。
したがって、
「海外の需要を取り込むため、日本国内の生産・供給能力を強化する」
というタイプの海外展開が、この制度の中心的なイメージです。
グローバル枠の補助率・補助上限額
第1回公募の主な条件は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 中小企業等 |
| 主な目的 | 新たな海外市場への輸出に向けた国内の輸出体制強化 |
| 補助率 | 2/3 |
| 補助下限 | 750万円 |
| 補助上限 | 従業員数に応じて2,500万円~7,000万円 |
| 賃上げ特例適用時 | 最大9,000万円 |
| 採択予定数 | 制度全体で約6,000件(グローバル枠単独の内訳は未公表) |
| 応募締切 | 2026年10月30日(金)18時 |
補助上限額は従業員数によって異なり、従業員1~20人の場合は2,500万円、21~50人は4,000万円、51~100人は5,500万円、101人以上は7,000万円です。
一定の賃上げ要件を満たす場合には補助上限額が引き上げられ、最大9,000万円となります。
対象経費には、機械装置・システム構築費、建物費、原材料費、外注費、専門家経費、広告宣伝・販売促進費などに加え、海外旅費や通訳・翻訳費も含まれます。
ただし、グローバル枠では、「機械装置・システム構築費」または「建物費」のいずれかを必ず補助対象経費に含める必要があります。
この点は、海外市場調査を中心とした補助金とは大きく異なります。
予算規模は1,160億円、制度全体で約6,000件の採択を予定
「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」は、比較的大規模な中小企業向け支援制度です。
中小企業庁の資料によると、本制度の予算額は1,160億円とされています。
また、中小企業基盤整備機構が公表した事務局公募資料では、2026年度末までに3回程度の公募を行い、制度全体で計6,000件程度を採択する予定とされています。
この6,000件は、「革新的新製品・サービス枠」「新事業進出枠」「グローバル枠」を合わせた制度全体の数字です。
現時点ではグローバル枠単独の採択予定件数は示されていませんが、制度全体として1,000億円を超える予算と数千件規模の採択が予定されている、大型の中小企業支援策となっています。
グローバル枠の採択率は?旧制度では約28%
今回の「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」は2026年度に始まった新制度であり、第1回公募の採択結果はまだ出ていません。
したがって、現行制度のグローバル枠について採択率を示すことはできません。
参考になるのが、前身の一つである「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」のグローバル枠です。
同制度の第23次公募では、グローバル枠について次の結果となっています。
- 申請者数:106者
- 採択者数:30者
- 採択率:約28.3%
おおむね3~4社に1社程度が採択された計算になります。
ただし、これはあくまで旧制度における実績です。
今回の「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」は制度自体が再編され、審査要件や他の申請枠との関係も変わっています。
そのため、旧制度の採択率約28.3%を、今回のグローバル枠の採択率の予測値として見ることはできません。
「過去の類似制度ではどの程度の競争があったのか」を把握するための参考値として考えるのがよいでしょう。
グローバル枠はどのような企業に向いているのか
グローバル枠と特に相性がよいのは、すでに日本国内で製品やサービスを持ち、新しい海外市場への輸出を本格化するために国内投資が必要となっている中小企業です。
例えば、次のようなケースが考えられます。
- 日本国内で製造している製品を、初めてインド、ASEAN、アフリカ、欧米などへ本格輸出するため、生産設備を増強したい
- 海外向けの商品仕様や包装・検査体制に対応するため、新たな機械やシステムを導入したい
- 新しい海外市場への輸出拡大を見込み、国内工場の生産能力を増強したい
- 国内設備投資とあわせて、現地での商談、展示会出展、販売促進なども行いたい
- グローバルサウス補助金の対象国・分野には当てはまらないが、新しい海外市場への進出を計画している
特に大きな特徴は、進出先がグローバルサウス諸国に限定されていないことです。
米国、欧州、オーストラリアなどを含め、自社にとって新しい国・地域の市場であれば対象となる可能性があります。
一方、「海外市場調査だけ」には向いていない
注意したいのは、海外進出に使えるからといって、現地市場調査や海外出張だけを行う事業が対象になるわけではないことです。
この制度の中心は、あくまで海外市場開拓に向けた国内の輸出体制の強化です。
したがって、
- 現地市場のニーズを調べたい
- 販売代理店候補を探したい
- 規制や許認可について調査したい
- テストマーケティングを行いたい
といった活動だけでは、グローバル枠の趣旨には合いません。
また、海外現地法人に工場を建設したり、海外工場の生産設備を増強したりすることを主目的とする制度でもありません。
こうした「海外現地で何を確認する必要があるのか」が中心となる案件では、別の海外展開支援制度を検討する必要があります。
グローバルサウス補助金とは何が違うのか
海外展開を検討している企業にとって比較対象になりやすいのが、経済産業省のグローバルサウス補助金です。
グローバルサウス補助金は、グローバルサウス諸国での具体的な案件形成や事業化に向け、日本企業が行うFS(実現可能性調査)や小規模実証を支援する制度です。
市場、顧客ニーズ、規制、競合、採算性、現地パートナーなどを調査するFSや、実地に適用可能な技術・サービスを現地で使用し、その有効性や経済性を検証する小規模実証が対象になります。
グローバルサウス補助金については、イースクエアの以下の記事でも詳しく解説しています。
グローバルサウス補助金の対象事業とは?採択を目指すために押さえたい7つのポイント【2026年版】
2026年10月に開始された二次公募については、こちらの記事で一次公募からの変更点を整理しています。
グローバルサウス補助金の二次公募が開始|一次公募からの主な変更点【2026年10月】
制度の詳細については、公式サイトもご確認ください。
グローバル枠とグローバルサウス補助金を比較
両制度とも海外事業に活用できますが、支援する事業の段階や内容はかなり異なります。
| 項目 | 新事業進出・ものづくり補助金「グローバル枠」 | グローバルサウス補助金 |
|---|---|---|
| 主な目的 | 新しい海外市場への輸出拡大 | グローバルサウス諸国での案件形成・事業化 |
| 主な対象 | 中小企業等 | 日本企業(大企業を含む) |
| 対象地域 | 自社にとって新しい海外市場 | グローバルサウス諸国 |
| 活動の中心 | 日本国内 | 海外現地 |
| 中心となる取組 | 国内の製造・輸出体制強化 | 海外でのFS・小規模実証 |
| 国内設備投資 | 中心的な対象 | 基本的には対象外 |
| 海外市場調査 | 国内投資に付随して実施 | FSの中心的な活動 |
| 海外での実証 | 主目的ではない | 小規模実証として対象 |
| 中小企業の補助率 | 2/3 | 2/3以内 |
| 大企業 | 原則対象外 | 1/2以内 |
| 補助上限 | 通常最大7,000万円、特例最大9,000万円 | FS:1億円、小規模実証:5億円 |
| 採択予定数 | 制度全体で約6,000件(グローバル枠単独の内訳は未公表) | 二次公募:FS・小規模実証合わせて65件程度 |
特に大きな違いは、どこで、何のために費用を使うのかです。
グローバル枠では、日本国内の製造設備や供給体制への投資が事業の中心になります。
一方、グローバルサウス補助金では、海外現地で市場・顧客・規制・パートナー・事業採算性などを確認したり、技術やサービスの有効性を実証したりすることが中心になります。
両制度を一言で分けるなら、
「海外で事業化の条件を確認する」のがグローバルサウス補助金、
「海外へ売るために日本の供給力を強くする」のがグローバル枠
と考えると分かりやすいでしょう。
自社にはどちらの補助金が向いているのか
例えば、新たにインド市場への進出を検討しているメーカーを考えてみましょう。
まだインドで自社製品に需要があるのか、どの程度の価格なら販売できるのか、どのような販売パートナーが必要なのか、許認可上の問題がないのか、といった事業化条件そのものが分かっていない場合には、まず現地でFSを行う必要があります。
対象国・分野・事業類型などの要件を満たしていれば、こうした案件はグローバルサウス補助金のFS事業との相性がよいでしょう。
一方、
「インド市場での需要や販売戦略はある程度見えており、本格的に輸出するには日本の工場の生産能力を増やす必要がある」
という段階であれば、「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」のグローバル枠の方が適している可能性があります。
さらに、現地で実際に機器やサービスを一定規模で運用し、有効性や経済性を確認する必要があるのであれば、グローバルサウス補助金の小規模実証が選択肢になります。
FSと小規模実証の違いについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
グローバルサウス補助金のFSと小規模実証の違い|どちらに応募すべき?【2026年版】
つまり、どちらの補助金額が大きいかではなく、
「海外事業を進めるうえで、今何を確認・整備する必要があるのか」
を整理した上で制度を選ぶことが重要です。
2つの制度を海外展開の段階で考える
海外事業を次のような流れで考えると、両制度の違いはさらに分かりやすくなります。
海外市場の可能性・規制・パートナー・採算性を確認する
↓
現地で技術・サービスの有効性や経済性を実証する
↓
本格的な輸出に向けて国内の製造・供給能力を強化する
前半のFSや実証に適しているのがグローバルサウス補助金であり、後半の国内生産・輸出体制強化に適しているのが「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」のグローバル枠です。
もちろん、同じ経費について複数の国庫補助金を重複して利用することはできません。それぞれの補助金の対象要件を満たす必要もあります。
しかし、海外展開を一つの長期的なプロセスとして考えれば、自社が現在どの段階にあり、何を確認・整備する必要があるのかによって、適切な支援制度を選ぶことが重要です。
2026年10月は2つの補助金が同時に公募中
2026年10月7日現在、両制度はいずれも公募期間中です。
「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」第1回公募の応募締切は、
2026年10月30日(金)18時
です。
一方、令和7年度補正グローバルサウス補助金の二次公募の応募締切は、
2026年10月23日(金)12時
です。
二次公募では、FS事業・小規模実証事業を合わせて65件程度の採択が予定されています。
どちらの制度も、事業計画、経費、実施体制などについて一定の準備が必要です。
活用を検討している企業は、まず自社の海外展開がどの段階にあり、今回の補助事業で何を実現する必要があるのかを整理することをお勧めします。
まとめ|国内の輸出体制強化なら「グローバル枠」も有力な選択肢
「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」のグローバル枠は、
「海外市場に本格的に進出したい。そのためには日本国内の生産・供給体制への投資が必要」
という中小企業にとって、有力な選択肢となる制度です。
一方、まだ海外市場の事業性そのものを確認する段階であれば、グローバルサウス補助金などのFS支援制度が適しているケースがあります。
また、現地で技術やサービスの有効性・経済性を確認する必要があれば、小規模実証を検討することになります。
海外展開向けの補助金は、「海外」という共通点だけで選ぶのではなく、市場調査、実証、設備投資、本格展開のどの段階にあるのかによって使い分けることが重要です。
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「自社の海外事業にはどの補助金が適しているのか分からない」「補助金を活用して海外市場への進出を検討したい」といった場合には、お気軽にご相談ください。
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