• サステナビリティ・ESG
【連載第2回】アンドリュー・ウィンストン氏からのメッセージ②「サステナビリティは攻撃されているが、死んではいない」

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本記事は、イースクエアが運営する企業ネットワーク「The Frontier Network(TFN)」の会員向け情報誌『The FRONTIER REPORT』に掲載された記事を、許諾を得て掲載しています。The Frontier Network(TFN)について詳しく見る

筆者は前回のフロンティア・レポートの記事にて「サステナビリティは米国でまだ健在か?」という問いを投げかけた。それから数か月の間に、企業のサステナビリティの状況をめぐる議論はさらに過熱している。大手ビジネスメディアであるBloomberg Businessweekは、最新号で「企業は気候変動対策の誓約を破棄している」と題した特集を組んだ。

このように、サステナビリティが終わったかのような見出しが散見されるようになった。また、サステナビリティ業界内のソーシャルメディアでも同様の論調が目立つ。しかし、このような結論の多くは根拠が乏しい体験談に基づいている。確かに、一部の著名企業が目立った後退を見せている事例は存在する―特にDEI(ダイバーシティ、公平性、インクルージョン)の領域で顕著である。Businessweekなどの報道は、これらの事例をもって潮流の変化と主張している。しかし、大手ブランドの一部が後退しているにもかかわらず、大多数の企業はサステナビリティから手を引いておらず、多くは今なお前進している。

実際のデータや、企業内部で静かに進行している現実は、まったく異なる姿を映し出している。多くの企業がサステナビリティの語り方を変え、再ブランディングしたり、目立たず物議を醸しにくい表現に置き換えているのは事実だが、大半の企業はそのことについて多くを語らずとも、依然として脱炭素化やレジリエンスへの投資を継続している。

新しいデータに触れる前に、サステナビリティおよびESGが確かに強い政治的圧力にさらされている事実をまず認めておくべきである。世界的に見ると、ポピュリスト的指導者や右派政党は、気候変動対策や社会的公平性の推進を「ウォーク(woke、行き過ぎた社会正義志向という意味での蔑称)」と位置づけ、その上でステークホルダー資本主義という概念を攻撃している。これは、特に化石燃料や資源採掘産業に属する既得権益層による、資金力と組織力を備え、足並みをそろえた動きである。それは、世界がよりクリーンで公正なシステムへと移行する中で、現状を維持し、権力と利益を守ろうとする明白な試みである。

単なるレトリックや演説ではない。米国の保守的な「赤い」州の多く、たとえばテキサス州やフロリダ州では、気候リスクなどESG基準による投資のスクリーニングを投資家に行わせないようにする法律が成立している。連邦政府を含む他の当局も、DEIプログラムを有する企業に対して法的措置を取ると脅している。

このような政治的喧騒や法的脅しは実際に影響を及ぼしている。取締役会やCEOは、法的責任や政治的反動を恐れている。私の顧客の一社は、自社のウェブサイトからすべてのサステナビリティ報告書を削除した(もっとも、サステナビリティ活動自体は継続している)。企業は明らかに一部の重要な用語の使用を減らしている。たとえば、2024年から2025年にかけて、フォーチュン100企業の企業報告書における「DEI」という略語の出現回数は驚くべきことに98%減少した。一部の企業はDEI活動を縮小し、部門を閉鎖し、目標を放棄している。だが、こうした事例が必ずしも大規模な後退を意味するわけではない。

前回の記事で私は、企業が後退しているかどうかを判断する一つの方法として、公開されているサステナビリティ目標に注目すると良いとお伝えした(もちろん、目標は成果と同義ではないが、意図を示すものであり重要である)。この点について、最近2つの調査が実証的データを提供している。その結果は予想よりも楽観的であり、つまり圧力にもかかわらず大多数の企業が脱炭素化、サステナビリティ、レジリエンスへの投資を継続しているというものだった。

まず、PwCの「2025年脱炭素化の現状レポート」は、世界1,000社以上の公開情報を分析しているが、その結果、目標を縮小または実施を一時停止した企業はわずか16%であり、70%は気候変動への取り組みを前進させるか維持していた。つまり、後退している企業1社に対し、4社以上が現状を維持または前進させていることになる。PwCはこう結論づけている。「政治的逆風にもかかわらず、企業は規制、投資家の圧力、経済環境の変化により、気候目標を中核的な事業計画に統合し続けている」。

二つ目の報告書はハーバード大学の研究者によるものであり、時価総額上位のEUおよび米国企業に加え、大規模な非公開企業のサステナビリティ報告書やその他の公開情報を分析している。過去にサステナビリティへのコミットメントを表明していた企業のほとんどについて、その意向の変化を追跡し、特にDEI活動に注目した。PwCの調査結果と同様に、後退を公に示した企業は約19%、何も発言していない企業は40%、コミットメントを再確認した企業は28%、目標を拡大した企業は13%であった。報告書の著者はこう結論づけている。

「ESGが広く後退しているというストーリーは、企業の実際の行動が示す事実と一致しない。多くの企業は放棄ではなく適応している。」

さらに投資家の世界でも、反ESG運動がメディアの一部が言うほど成功していないことを示す証拠がある。企業は反ESG株主提案の増加に直面しているが、それらは惨敗しており、支持率はわずか1~2%に過ぎない。

米国のように激しい逆風にさらされている地域であっても、サステナビリティは今後も続くとみられる。では、その理由を簡単にまとめ、行動の必要性を社内で理解し共有できるようにしておきたい。企業がサステナビリティを推進し続ける三大要因は以下の通りである。

リスクは現実であり、拡大している

気候変動、生物多様性の崩壊、格差拡大は政治問題化しているが、現実の脅威であり、事業継続性、サプライチェーン、顧客需要に重大なリスクをもたらしている。企業は気候科学を議論する必要はなく、洪水、火災、熱波によるコストの増大を見れば十分である。保険業界はすでにこれを理解している。

解決策は安価で拡大可能である

クリーンエネルギー、電化、持続可能な素材、低炭素のオペレーションや物流は非常に費用対効果が高く、さらに安価になりつつある。クリーン経済は急速に進展しており、特に中国で顕著であり、世界では毎年数兆ドル規模の投資が行われている。サステナビリティへの行動はコスト増につながるという考えは、ますます現実と乖離している。

次世代はより多くを期待している

若い世代の従業員、顧客、投資家は、単なる利益ではなく存在意義を求めている。サステナビリティを放棄する企業は、成長と繁栄に必要な人々から支持を失う危険がある。

経済の変革は進行中である、ストーリーではなくデータを見よ

端的に言うならば、経済の普及・拡大、根本的な変革は依然として進行中である。行動を促す力は実在し、強力である。そして、データによると、これまでのところ大規模な後退は起きていない。資本は動き、技術は拡大し、消費者はより持続可能な製品を求め、従業員はより多くを要求している。多くの政府も、反発を受けながらも規制を強化している。

もっとも、米国におけるサステナビリティが健全な状況にあるとは言い難い。それでも圧力を受けながらも続いていくだろう。多くの経営者は発言を恐れている。それでも、「サステナビリティは死んだ」というのは単なるストーリーに過ぎない。したがって、サステナビリティに関わる人々は、続いている行動の現実を理解し、それを広く伝えることが不可欠である。反発の影響が比較的小さい地域にいるのであれば、今こそ先頭に立って、声を上げるべきである。日本企業は、別の視点から語り伝える役割を果たせる。

CEOや経営幹部は往々にして周囲に同調する。仮に「サステナビリティは死んだ」という声が広まれば、たとえそれが事実でなくとも、経営者は取り組みを縮小するであろう。しかし逆もまた真であり、行動と集団的勇気によってこのムーブメントを進めていくことは可能である。ビジネスの未来は持続可能であり続ける、というのは決して約束された結末ではない。ゆえに私たちは、その実現のために闘わなければならないのである。

過去の掲載記事

第1回 アンドリュー・ウィンストン氏からのメッセージ①「米国におけるサステナビリティの今」~企業が直面している主な圧力と注視すべきポイント~

筆者紹介

アンドリュー・ウィンストン氏(Andrew Winston)

メガトレンドおよびサステナブル・ビジネスに関する世界的に著名な専門家である。
世界で最も影響力のある経営思想家を選出する「Thinkers50」において、第3位にランクインした経歴を持つ。戦略に関する著書としては、『Greento Gold』『The Big Pivot』、そして伝説的なCEOポール・ポールマンとの共著『Net Positive』などがあり、これの書籍は15か国語に翻訳され、累計25万部以上を売り上げている。『NetPositive』は、英フィナンシャル・タイムズ紙によって「年間最優秀ビジネス書」の一冊に選ばれた。
世界中の経営幹部を対象とした講演において、非常に高い人気と評価を誇るインスピレーショナルなスピーカーである。

Andrew Winston:HOME / Andrew Winston: LinkedIn

**The Frontier Network (TFN)は、サステナビリティを巡るグローバルな潮流を捉え、「持続可能な価値創造」を実践する企業のネットワークです。世界の第一人者との対話や、メンバー企業間の議論・情報交換を通じて、サステナビリティ・ESG経営の推進を支援しています。**

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