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日本取引所グループ(JPX)傘下のJPX総研とロンドン証券取引所グループ(LSEG)の100%子会社であるFTSE Russell(通称:フッツィー)が新たな連携を発表し、日本に展開する代表的なESG指数である「FTSE Blossom Japan Index」及び「FTSE Blossom Japan Sector Relative Index」が、それぞれ「FTSE JPX Blossom Japan Index」及び「FTSE JPX Blossom Japan Sector Relative Index」に改称されることになりました。
この改称は単なる名称変更にとどまらず、日本の多くの企業にとって重要な意味も持ち合わせているといえます。

本記事では、この改称の背景、具体的な変更点、そして日本企業にどのような影響があるのかを、本件にとって重要な観点であるTOPIX(東証株価指数)の見直しの動きとあわせて分かりやすく解説します。
また、「FTSE Blossom Japan Index」について詳しく知りたい方は、日本企業の構成銘柄と指数組み入れ基準について解説しております、こちらの記事もご参照ください。
気になる変更点は?「FTSE JPX Blossom Japan Index」への改称と両社連携の概要
指数名称の変更
日本取引所グループ(JPX)傘下のJPX総研と、世界的に信頼されるインデックス・プロバイダーの一つであるFTSE Russellは、連携に合意したことを発表しました。この合意に基づき、以下の2つの指数が改称されます。
「FTSE Blossom Japan Index」 → 「FTSE JPX Blossom Japan Index」
「FTSE Blossom Japan Sector Relative Index」 → 「FTSE JPX Blossom Japan Sector Relative Index」
重要な変更点
重要な変更点は、指数の構成銘柄の選定基準です。今後、TOPIXの構成銘柄でない場合は、FTSE JPX Blossom Japan Indexシリーズから除外されるという新しいルールが適用されます。
この連携の目的について、JPX総研の二木聡社長は、
「今般、日本株を代表し、当社の旗艦指数であるTOPIXの情報を利用することで、広く受け入れられているサステナブル指数であるFTSE Blossom Japan Indexシリーズの強化に携わることを喜ばしく思います」
と述べています。また、FTSE Russellのフィオナ・バセットCEOも、
「お客様のフィードバックを受けて、今回、重要な商品強化を行い、TOPIXの構成銘柄情報を取り入れることで、これらのBlossom Japan Indexシリーズが今後も日本市場におけるESGの取り組みを促進し続けるものと確信しています」
とコメントしており、日本株の市場平均を示すベンチマークであるTOPIXをユニバース(母集団)とすることで、指数を強化し、日本市場におけるESGの取り組みを促進し続けることが狙いだとわかります。
なぜ今なのか?改称の背景にあるTOPIX(東証株価指数)の改革
TOPIX(東証株価指数)の見直し
TOPIX(東証株価指数)は、1969年7月1日に算出が開始された日本株市場を代表する株価指数のひとつです。近年、国内外でのインデックス運用の拡大(ETF(上場投資信託(Exchange Traded Fund))や年金信託などのパッシブ運用資産の拡大)に伴い、TOPIXを「市場の代表性を持つベンチマーク」だけでなく「投資対象としての機能性を持つ指数(investable index)」として強化する必要性が高まっています。
こうした背景を受け、日本取引所グループ(JPX)は2022年4月の市場区分再編を契機に、TOPIXの大規模な見直し(インデックス改革)を進めています。
今回の日本取引所グループ(JPX)とFTSE Russellとの連携は、この2022年から始まったTOPIXの見直しという大きな流れの中に位置づけられます。このTOPIX改革の文脈を理解することが、今回の改称に伴う変更の重要性を把握する鍵となるといえるでしょう。
TOPIX改革の主な目的は、約110兆円もの連動資産を持つ我が国を代表するマーケット・ベンチマークとして、以下の2点を達成することに集約されます。
- 投資対象としての機能性向上:流動性の低い銘柄の比重を段階的に低下させ、国内外の投資家にとってより投資しやすい指数を目指す。
- 市場代表性の維持と向上:プライム市場・スタンダード市場・グロース市場の全市場区分を対象としつつ、従来以上に流動性を重視して銘柄を選定する方針に転換する。
段階的措置
今回の見直しスケジュールとしては、以下の通り大きく 「第一段階」と「第二段階」の2 段階に分けて行われます。
第一段階(2022年4月~2025年1月)
- 旧東証市場区分との紐づけが廃止。
- 政策保有株式を「固定株」とみなし、浮動株から除外。
- 流通株式時価総額が一定水準に達しない銘柄(100億円未満)を「段階的ウエイト低減銘柄」に指定。
第二段階(2024年6月~2028年7月)
- 対象市場をプライム市場に限らず、スタンダード市場・グロース市場も含む「全市場区分」に拡大。
- 毎年1回、10月最終営業日を基準に、流動性基準に基づく「定期入替制」を導入(初回は 2026年10月、以後 2028年10月までは段階的な移行措置)。
- 銘柄の選定・継続基準として「浮動株時価総額の累積比率:銘柄を浮動株時価総額の大きい順に並べたとき、累積で上位 96–97%以内」、そして「年間売買代金回転率:0.20以上(追加銘柄)/0.14以上(継続銘柄)」を設定。
- 組入れウエイトのキャップ(上限)として「10%キャップ」ルールの維持。
新ルール下における試算
新ルール下の試算(2025年8月のJPX最終営業日基準)によると、この改革に伴う「指数特性・代表性の維持」については以下の通りです。
- 浮動株時価総額の合計は約580兆円から約573兆円とほぼ維持され、市場カバー率(=国内株式市場に対する代表性)も約97.6% → 約96.5%と大きな低下は見られない。
- 浮動株時価総額の中央値や売買代金の中央値は、それぞれ約2倍に改善される見込み。
- 規模別構成や業種別の構成にも変化があり、たとえば大型銘柄のウエイトがやや増加、小型銘柄のウエイトが減少する傾向がある。
- TOPIXの構成銘柄数については、次の通り段階的に絞り込まれる計画。
- 2022年4月(市場区分再編前): 約2,200銘柄
- 2025年1月(第一段階見直し完了時): 約1,700銘柄
- 2028年7月(第二段階見直し完了時): 約1,100銘柄
この計画が示す通り、TOPIX構成銘柄であり続けることのハードルが上がるといえるでしょう。これは、かつての「東証一部上場=TOPIX採用」という時代が終わりを迎え、今後は企業が市場での流動性を積極的に維持・向上させない限り、日本を代表する株価指数から除外され、投資対象としての魅力を失うリスクに直面することを意味します。
改称による日本企業への影響と今後の課題とは?
2つの側面とクリアすべき2つのステップ
今回の改称とTOPIX改革は、日本企業に対して新たな課題を突きつけています。つまり、企業はESG評価機関からの評価と市場からの評価という、2つの側面で高いレベルを維持する必要に迫られるといえるでしょう。
この連携は、日本企業にとって単なる指数構成銘柄の変更に留まりません。今後は、TOPIX構成銘柄であり続けるための「市場からの評価」と、高い水準の「ESG評価」という、二重のハードルを越え続けることが求められるといえるでしょう。
企業が「FTSE JPX Blossom Japan Index」に選定・維持されるためには、以下の2つのステップをクリアする必要があります。
- 市場からの評価:市場での流動性等を確保し、TOPIX構成銘柄に選定・維持されることで、資本効率の上昇や市場評価の向上につなげる。
- ESG評価:その上で、環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)の取り組みと開示を行い、FTSE Russellの基準に基づく高いESG評価を得る。
これらの指数は、いずれもFTSE Russell独自のESG評価モデルを用いて企業を分析し、ESGレーティングスコアを算出。そのスコアに基づいて、指数に組み入れる銘柄が選定されます。
特に、ガバナンスと情報開示の質は、TOPIX採用とESGスコアの双方に直結し、IR・財務・サステナビリティの分断的な取り組みは通用しなくなります。企業は、これらの領域を統合し、投資家向け説明責任を果たす体制の構築が必要です。
2つの変化と影響
この二重のハードルが企業に与える影響は大きく、以下のような2つの変化をもたらすことが考えられます。
影響 1:TOPIX構成銘柄であることの重要性が増す
GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)も採用する日本を代表するESG指数への採用が、TOPIX構成銘柄であることが大前提となりました。特に「FTSE Blossom Japan Index」シリーズは、GPIFが公表した最新のESGレポートによると、GPIFが選定したすべてのサステナブル指数の中で最もパフォーマンスが高い指数であり、その戦略的重要性は言うまでもありません。
これにより、TOPIXに選定されることの価値は、単なる市場ベンチマークの構成銘柄である以上に、サステナビリティ投資の対象となるための入場券としての意味合いを強く持つことになります。
影響 2:財務戦略とサステナビリティ戦略の一体化が必須になる
これまでは別々に語られることも多かった「資本市場からの評価(流動性や資本効率など)」と「ESG評価」が、指数を通じて直接的に連動する構造になりました。企業は、株主や投資家を意識したIR活動や財務戦略と、環境・社会・ガバナンスへの取り組みを統合し、両方の側面から経営改革を推進していくことがさらに不可欠となります。
まとめ
改称に見る、インデックスの「見直し期」に入る日本市場の動向
今回の「FTSE Blossom Japan Index」の改称は、日本の資本市場における大きな変化の潮流を示す重要な出来事だといえるでしょう。最後に、本記事の要点を3つのポイントにまとめて終わりにしたいと思います。
- 「FTSE Blossom Japan Index」は「FTSE JPX Blossom Japan Index」に改称され、今後はTOPIX構成銘柄のみが対象となる。
- この変更の背景には、構成銘柄を絞り込み、投資対象としての機能性を高めるTOPIX自体の大きな改革がある。
- 企業にとっては、TOPIXに残り続けるための市場評価と、ESG評価の両方を高める統合的な経営戦略がこれまで以上に求められる。
【参考】
FTSEのESGスコア
FTSEのESGスコアは、企業のESG経営を国際的な視点で「見える化」する仕組みです。評価は公開情報のみを基に行われるため、いかに自社の方針や成果を明確に「見せる」かが重要です。また、FTSEの体系的な評価モデルは、スコア改善に活用するだけでなく、自社の開示や戦略を整理する強力なフレームワークになります。
FTSEへの対応は、単なるスコア対策ではなく、自社のESG戦略を国際基準に高めるチャンスです。自社のESG経営を一段上のレベルへ引き上げる契機として活用されることをお勧めいたします。
本記事とともに以下のページもぜひご覧ください。
イースクエアにおけるFTSE評価改善支援
イースクエアでは、FTSEの投資家向けデータベースを利用できる環境を構築しており、蓄積された評価データおよび評価手法に対する知見をもとに、企業のFTSE ESGスコア向上、FTSE Blossom Japan Index組入れのためのESG情報開示支援をご提供しています。その結果、約10年にわたり数多くの企業様のFTSE Blossom Japan Indexの新規組入れを実現してきました。
現在、当社のご支援によりFTSE Blossom Japan Indexへの組入れを達成した企業様の割合は、ご支援開始から1年で75%、2年目で94%、3年目まで継続したご支援により100%となっています。今後も本指数への新規組入れを目指される企業様をご支援してまいります。
詳しくは以下のページをご参照ください。
用語集
FTSE
英国ロンドン証券取引所グループ(LSEG)の100%子会社FTSE Russellが運営する株価指数のブランドです。1984年にフィナンシャル・タイムズ紙とロンドン証券取引所の共同事業として設立され、2015年には米国のインデックス会社Russell Investmentsとの統合により現在の形となった。FTSE Russellは、世界的に信頼されるインデックス・プロバイダーの一つで、世界の株式や債券を対象とした幅広い指数を提供しています。代表的な指数には「FTSE 100」があり、さらに「FTSE4Good」や「FTSE Blossom」などのESG(環境・社会・ガバナンス)関連インデックスでも広く知られる。
JPX
日本取引所グループを指しており、2013年に東京証券取引所グループと大阪証券取引所が統合して設立された持株会社。傘下には東京証券取引所、大阪取引所、東京商品取引所などがあり、株式、債券、先物、オプション、商品デリバティブといった多様な市場を運営している。JPXは、上場審査、情報開示の確認、取引監視、清算・決済業務などを通じて、市場の制度運営と関連業務を担っているほか、指数算出や市場データ提供などの情報サービス事業も行っている。これらの機能により、国内外の投資家が利用する取引基盤を整備し、金融商品取引に関する各種ルールの整備と運用を担っている。
TOPIX
東証株価指数を指し、東京証券取引所に上場する銘柄を対象として算出される株価指数。1968年1月4日の時価総額を基準値100として設定し、算出時点の浮動株調整後の時価総額を用いて指数化されている。対象は、かつての東証第一部に相当する市場区分の銘柄であり、現在は主にプライム市場上場銘柄が含まれます。指数は時価総額加重型で構成され、構成銘柄の時価総額に応じて指数への影響度が決定される。TOPIXは市場全体の動向を示す基礎的な指標として利用され、各種金融商品や資産運用の基準指数としても採用されている。

