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日本のアジア・太平洋地域における防災協力について

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日本は地震や台風、豪雨などの自然災害が頻発する国であり、これまでに阪神淡路大震災(1995年)、東日本大震災(2011年)や西日本豪雨(2018年)といった甚大な被害を経験してきました。これらの災害を通じて培われたノウハウや知見、技術を活かし、日本は防災対策を進化させ続けています。

アジア・太平洋地域における日本の防災協力は、こうした経験を基に地域の安全性と安定性を支える重要な取り組みとなっています。日本は、防災技術や被災対応の知見を共有し、インフラ整備、防災関連製品の輸出、防災教育、国際機関との連携を通じて、地域社会の防災力強化に貢献しています。

さらに、この協力により日本企業にとっても新たなビジネス機会が広がり、国際的なプレゼンスの強化にもつながっています。以下、日本が行っている主な防災協力の活動について紹介します。

 

1.技術協力とキャパシティ・ビルディング

日本の防災協力における技術協力とキャパシティ・ビルディング(能力開発)は、特に災害リスクの高いアジア太平洋地域において重要な役割を果たしています。以下に、JICA(国際協力機構)を通じた日本の具体的な取り組みについて詳しく説明します。

 

JICAの技術協力とプロジェクト

JICAは、防災分野での技術協力を通じて、災害リスクの軽減や災害対応能力の向上を目的としたプロジェクトを各国で実施しています。この協力は、地震や津波、洪水、台風など、地域の特性に合わせた技術支援や防災計画の策定を含みます。

 

具体例:

 

②リスク評価技術の提供

災害リスク評価技術は、災害に強いインフラを整備するために重要な要素です。JICAは、日本国内で蓄積された地震や津波の予測技術、リスク分析手法を他国に提供し、その国の地理的特徴や過去の災害データに基づいてリスクを評価する技術を共有しています。

 

具体的な支援内容:

 

③災害に強いインフラの整備

日本は地震や台風などに対する災害に強いインフラ整備の経験を豊富に持っています。この経験を活かして、JICAはアジア太平洋地域の国々で、災害に耐えうるインフラの設計・建設を支援しています。具体的には、道路、橋梁、ダムなどの耐震補強や、洪水対策のための排水システムの改善などが挙げられます。

 

具体的なプロジェクト:

 

④専門家の派遣と現地の能力開発

災害リスク管理における現地の人材育成も、日本の防災協力の重要な要素です。JICAは災害リスク管理に関する専門家を各国に派遣し、現地政府や防災機関と連携してキャパシティ・ビルディングを行っています。

 

取り組みの内容:

 

⑤災害対応訓練とシミュレーション

災害発生時の対応能力を高めるため、日本はシミュレーション技術を利用した災害対応訓練を支援しています。これには、地震や津波、洪水が発生した際に迅速かつ効果的に対応するためのシナリオ訓練や、各国の防災当局との協力体制の強化が含まれます。

 

参考情報:

JICAグローバル・アジェンダ、防災・復興を通じた災害リスク削減、https://www.jica.go.jp/activities/issues/disaster/index.html

 

2.災害リスク軽減のための国際的な枠組みへの貢献

日本が主導的役割を果たした「仙台防災枠組み(Sendai Framework for Disaster Risk Reduction 2015-2030)」は、災害リスク軽減(Disaster Risk Reduction: DRR)を目的とした国際的な行動指針であり、地球規模での災害リスク管理において重要な役割を果たしています。仙台防災枠組みは、2015年に日本の仙台市で開催された第3回国連防災世界会議において採択されました。この枠組みの詳細な内容と、日本の貢献について以下で説明します。

 

①仙台防災枠組みの概要

仙台防災枠組みは、2015年から2030年までの15年間を対象とした災害リスク軽減のための国際的な枠組みで、従来の「兵庫行動枠組み(Hyogo Framework for Action 2005-2015)」の後継となるものです。この枠組みは、自然災害だけでなく、技術的な災害や人為的な災害も含むあらゆる災害リスクの軽減に焦点を当てています。主な目標は、生命、生活、インフラ、環境に対する災害リスクを減少させ、災害発生後の損失を最小限に抑えることです。

 

仙台防災枠組みの4つの優先行動:

 

②日本の主導的役割

日本は、世界で最も災害の影響を受けやすい国の一つであり、その経験と知識を活かして仙台防災枠組みの策定に大きく貢献しました。日本は災害からの復興プロセスで得た教訓や、災害リスク管理における先進的な技術・制度を共有し、この枠組みの議論をリードしました。

具体的には、東日本大震災(2011年)の教訓をもとに、災害からの「より良い復興(Build Back Better)」の概念が枠組みの中核に据えられました。この概念は、単なる災害後の復旧ではなく、災害前よりもレジリエントな(強靭な)社会を構築することを目指しており、日本の震災後の復興の実例がその基盤となっています。

 

③アジア太平洋地域での協力

仙台防災枠組みに基づいた防災協力は、アジア太平洋地域で特に活発に進められています。この地域は、地震、津波、台風、洪水など多様な災害リスクを抱えており、日本は以下のような形で協力を進めています。

 

主な活動:

 

④日本の貢献と取り組みの具体例

日本は、仙台防災枠組みを地域で実施するために、以下の具体的な貢献をしています。

 

防災計画策定支援

防災教育と啓発活動

国際連携強化

 

⑤課題と今後の展望

仙台防災枠組みの実施には、各国の政治的意志や資金的制約、地域ごとの異なるリスクへの対応など、多くの課題があります。しかし、日本はこれらの課題を解決するため、引き続き技術協力やキャパシティ・ビルディングを推進し、災害リスク軽減に貢献していくことが求められています。

また、気候変動の影響で災害リスクが増加している現在、仙台防災枠組みの目標を達成するためには、より多くの国際協力や地域レベルでの連携が重要です。

 

主な参考情報:

仙台防災枠組み2015-2030https://sendai-resilience.jp/media/pdf/sfdrr_2.pdf

 

3.緊急援助と災害対応

日本の「緊急援助と災害対応」体制は、世界中で発生する災害に対して迅速かつ効果的に対応するために高度に整備されています。日本は、国内外の自然災害や人為的災害に対して、国際緊急援助隊を含むさまざまな手段で支援を提供し、その経験と技術を他国にも活用しています。以下に、日本の緊急援助と災害対応に関する詳しい説明をします。

 

①国際緊急援助隊(JDR: Japan Disaster Relief Team

日本の「国際緊急援助隊(Japan Disaster Relief Team, JDR)」は、自然災害や人為的な大規模災害が発生した際に、海外に迅速に派遣されるチームです。この援助隊は、被災国の要請に基づいて派遣され、救助、医療、技術支援、物資供給などの緊急支援を行います。

 

国際緊急援助隊の主な活動:

 

派遣プロセス:

 

②近年の緊急援助活動の例

日本の国際緊急援助隊は、近年でも多くの国際災害に対して迅速に対応しています。以下はその具体例です。

 

2020年のベイルート爆発事故

2021年のミャンマーのサイクロン災害

 

③緊急援助チームの連携体制

日本の国際緊急援助隊は、災害発生時に迅速に動けるよう、国内外で強固な連携体制を整えています。被災国政府や国際機関(国連や赤十字など)との調整を速やかに行い、最適な形で支援を提供します。

 

主な連携先:

 

④災害対応のための事前準備と訓練

迅速な災害対応を実現するため、日本の国際緊急援助隊は定期的に訓練を実施し、即応体制を強化しています。これには、国内外でのシミュレーション訓練や、他国との合同訓練が含まれます。

 

主な訓練:

 

⑤国内外の人道的災害支援

日本は、国際緊急援助隊を通じた災害支援活動だけでなく、国内でも災害支援活動を行っています。国内の災害発生時には、自衛隊や警察、消防などが迅速に動員され、救援活動が行われます。また、災害発生時に必要な医療物資や緊急物資の備蓄も国内で充実しています。

 

国内外での協力:

 

主な参考情報:

JICA国際緊急援助、https://www.jica.go.jp/activities/schemes/jdr/index.html

 

4.地域機関との連携

日本は、アジア太平洋地域における災害対応と防災協力において、地域機関との連携を強化するための重要な役割を担っています。特に、ASEAN防災人道支援調整センター(AHAセンター)やアジア防災センター(ADRC)といった地域機関との協力を通じて、防災における調整や技術支援、教育・情報共有を推進しています。以下、それぞれの機関との連携について詳しく説明します。

 

ASEAN防災人道支援調整センター(AHAセンター)との連携

ASEAN防災人道支援調整センター(AHAセンター)は、ASEAN(東南アジア諸国連合)の加盟国における災害対応と防災活動を調整するために設立された機関です。このセンターは、災害発生時にASEAN諸国間の連携を強化し、迅速かつ効果的な人道支援を提供するための調整を行います。

 

AHAセンターの主な役割:

 

日本の支援内容:

日本は、AHAセンターに対して資金援助や技術的サポートを提供し、その能力強化に貢献しています。

 

 

具体的な協力事例:

 

②アジア防災センター(ADRC)との連携

アジア防災センター(ADRC: Asian Disaster Reduction Center)は、1998年に日本の神戸市に設立された国際機関で、アジア太平洋地域の災害リスク軽減に取り組んでいます。このセンターは、災害に関する情報共有や防災教育、災害対策に関する研究を進める機関として、地域全体の防災能力向上に寄与しています。

 

ADRCの主な役割:

 

日本の支援内容:

日本は、ADRCの設立以来、強力な支援を行っており、技術的支援や防災教育の普及において重要な役割を果たしています。

 

 

具体的な協力事例:

 

③地域機関との協力の意義

日本がAHAセンターやADRCと協力することは、アジア太平洋地域における防災能力の強化にとって非常に重要です。日本は、災害対応の経験や技術を地域全体に共有し、共通の災害リスクに対して一体となって対策を講じることで、被害を最小限に抑えることを目指しています。これにより、地域内での防災協力が深化し、各国が災害に対するレジリエンスを高めるための土台が築かれています。

 

主な参考情報:

ASEAN防災人道支援調整センター(AHAセンター)、https://ahacentre.org/

アジア防災センター(ADRC)、https://www.adrc.asia/top_j.php

 

5.先進的な防災技術とノウハウの共有

日本は、災害リスクが高い国として、多くの自然災害に対する先進的な防災技術やノウハウを蓄積しており、それらを他国と共有することで、国際的な防災協力に積極的に貢献しています。日本が提供する技術やシステムは、地震、津波、台風などの自然災害に対する早期警報や予測システム、また災害後の復旧・復興を迅速に進めるための技術を含んでいます。以下、これらの先進的な防災技術やノウハウの共有に関する具体的な取り組みを説明します。

 

①地震予測技術と早期警報システム

日本は、世界でも最も地震の多い国の一つであり、地震に対する防災技術が非常に高度に発展しています。この経験と技術は、他国の地震災害リスク軽減に大きく貢献しています。

 

日本の技術の特徴:

 

国際協力の事例:

 

②津波早期警報システム

津波は日本が直面する主要な自然災害の一つであり、津波に対する早期警報技術は非常に進んでいます。日本は、インド洋津波(2004年)の後、アジア太平洋地域に津波早期警報システムの導入を支援してきました。

 

日本の技術の特徴:

 

国際協力の事例:

 

③台風と洪水に対する予測技術

台風や洪水は、日本だけでなくアジア太平洋地域の広範な地域で大きな災害を引き起こします。日本の気象庁や水文研究機関が開発した台風と洪水の予測技術は、他国の防災計画にも役立っています。

 

日本の技術の特徴:

 

国際協力の事例:

 

主な参考情報:

防災科学技術研究所(NIED)、https://www.bosai.go.jp/index.html

気象庁、気象業務はいま、気象庁の国際協力と世界への貢献、https://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/index.html

  

6.気候変動への対応

日本は、気候変動が引き起こす災害リスクの増加に対応するため、アジア太平洋地域の国々と連携し、気候変動適応策を強化しています。気候変動による自然災害の増加やその影響に備えるため、日本は高度な防災技術やノウハウを共有し、地域全体でのレジリエンス(災害に強い社会の構築)向上を目指しています。以下に、日本の気候変動に対する具体的な取り組みを詳しく説明します。

 

①海面上昇に対する沿岸地域の防災対策

気候変動による海面上昇は、特に島嶼国や沿岸地域に大きな脅威をもたらしています。アジア太平洋地域の多くの国々は、海面上昇による洪水や浸水のリスクに直面しており、日本はこれに対する防災対策を支援しています。

 

日本の取り組み:

 

国際協力の事例:

 

②気候変動に強い農業技術の導入

気候変動は農業にも深刻な影響を与え、干ばつや異常気象により農作物の生産性が低下するリスクが高まっています。これに対応するため、日本は気候変動に強い農業技術の導入を支援し、持続可能な農業の実現に向けた取り組みを進めています。

 

日本の取り組み:

 

国際協力の事例:

 

③気候変動適応のための技術移転とキャパシティ・ビルディング

日本は、気候変動に強い社会を構築するために、技術移転とキャパシティ・ビルディング(能力開発)を積極的に進めています。これにより、アジア太平洋地域の国々が自らの力で気候変動に対応できる体制を整えることを目指しています。

 

日本の取り組み:

 

国際協力の事例:

 

④気候変動による災害リスクの軽減

気候変動が原因で増加する自然災害(洪水、台風、干ばつなど)に対して、日本はその影響を軽減するための技術的支援を提供しています。これには、災害予測やリスク評価システムの導入、防災インフラの整備が含まれます。

 

日本の取り組み:

 

国際協力の事例:

 

主な参考情報:

JICAグローバル・アジェンダ、気候変動、https://www.jica.go.jp/activities/issues/climate/index.html

環境省、ecojin’s EYEEco-DRRhttps://www.env.go.jp/guide/info/ecojin/eye/20230913.html

 

まとめ

日本は、JICAを通じてアジア太平洋地域の防災能力向上に積極的に関与し、仙台防災枠組みに基づいた技術協力やキャパシティ・ビルディングを進めています。また、災害時には国際緊急援助隊(JDR)を通じて迅速かつ効果的な支援を提供し、ASEAN防災人道支援調整センター(AHAセンター)やアジア防災センター(ADRC)と連携して防災体制を強化しています。さらに、先進的な防災技術や早期警報システムを共有し、気候変動リスクに対応するための適応策も推進しています。これにより、地域全体のレジリエンス向上に貢献し、災害に強い社会を構築しています。

 

イースクエアでは、アジアやアフリカ等の途上国・新興国での多数のプロジェクト経験に加え、様々な民間企業でのビジネス経験を有するコンサルタントのノウハウや現地ネットワークをフル活用し、日本の防災関連の技術や製品の海外展開をご支援しています。

 

ご興味がある方はお気軽に以下よりお問い合わせください。

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